My Brain Is Closed

素人のんびり数学日誌

古典代数幾何における種数の定義へ至る説明

 過去(一年以上前)に勉強し、よく分からなかったが印象に残った代数曲線における重要な量について再度勉強したので、ここに説明する。

話を平面曲線で特異点は通常なものしか持たないものに限定する。(双有理変換によって、この前提に限定しても一般性を失わない、らしい。即興で説明できないのでらしいとしておく。)

"linear series" という道具を組み合わせて使うので、ここに定義を説明しておく。

linear series とはパラメータを持つ以下の方程式のことである:

 a f(x)+bg(x)=0.

ここで a,bはパラメータで f(x),g(x)は平面上の同じ次数の同次多項式である。

要するに一次元の線型系のことである。(古典代数幾何の文献を読むと、一次元の線型系(linear system)は linear series と書かれていることがある。例えば本説明で勉強した文献[1]を参照。pencil ともいうが、この用語はクレモナの原論[2]でも一次元的に動く図形の呼び名に使われている。 flat pencil とか。)

linear series が曲線と交わる時、ベズーの定理より交点の数は一定なのだが、この数を linear series の(その曲線に関する) order という。そして、それら交点の集まりを group of the linear series という。この group はパラメータの取り方に依るので、いろいろありうる。

linear series は射影直線への射 \phi: x \mapsto [f(x):g(x)]=[-b;a]を定めるが、曲線上で考えて、点を一旦この射で移して戻した点の集まり \phi^{-1}\phi(P) を考える。この戻したものの中に最初の点 P以外にも点 Pを持つ、というような点 Pの集まり(重複度がsの点は s-1個の点と数える)を linear series の(曲線に関する)Jacobi group という。

 

ここで書いている側も何のことかわからなくなったのでイメージを考える。

linear series としては、ある点を固定して、その点を通るような直線の集まりを考えよう。曲線としては簡単に円を考える。この直線を固定された点を軸にぐるぐる動かせば円との交わりはいろいろ変化する。これらが groups of linear series である。ひとつ直線を固定すれば group of linear series。 linear series の定める射によって移して戻すというのは、要するに、曲線 Cの上の点 Pを一つ指定すると、そこを通る linear series の直線 Lが定まるので、この直線Lと曲線 Cとの交わりを持ってきましょうということである。そして Jacobi group とは、この例でいえば、円と接する linear series の直線を持つような点の集まりのことである。Jaobi group は  (2-1)+(2-1)=2点あることがわかる。

 

さて、説明には次の代数的対応の定義が必要となる。曲線 C上で考える。

状況としては二つの linear series  g,g' of order m,m'が必要である(異なる必要はない)。

1.一方の linear series  gに対して、一つ方程式を取る。

2.その方程式と曲線 Cとの交わりから任意に1点 Pとる。

3.点 Pを通る linear series  g'の方程式を取る(一意)。

4.その方程式と曲線 Cとの交わりから点 P以外の点 P'を任意にとる。

5.点 P'を通る linear series  gの方程式を取る(一意)。

6.手順4において点 P'を他の点に対しても取り同様の手順を行う。

7.手順2において点 Pを他の点に対しても取り同様の手順を行う。

この対応によって曲線 C上に (m(m'-1),m(m'-1))対応の代数的対応が定まる。

ここで Chasles principle という射影直線上の代数的対応における定理を使う。

射影直線上の (n,n')対応の代数的対応は n+n'個の固定点をもつという主張である。ここで固定点とは点 Pに対応する集合が点 P自身を含むというものである。 Chasles principle の説明は、代数的対応の定める xに関して n次、 yに関して n'次の方程式 f(x,y)=0において単にx=yとすれば次数が n+n'となるというものである。

この定理を適用できる理由は、linear series の方程式はパラメータと一対一に対応しパラメータは射影直線上にあるとみなせるからである。すると量

 m(m'-1) + m(m'-1) = 2m(m'-1)

が定まる。

 

次にこの量2m(m'-1)の内訳を考えよう。言ってしまうと、この量は曲線 Cと linear series  g'に依存して定まる量と曲線 C自体によってのみ定まる量とに分けることができる。前者は Jacobi group を構成する点の数 r'で後者は曲線 Cの重複点の重複度 sに対する量 \sum (s-1)sである。

前者に関しては手順1で一つとる方程式の定める曲線が曲線 Cと重複点をもってしまうと、その点は Jacobi group に属することからわかる。

後者に関しては、そうでない場合、つまり曲線 Cと方程式の定める曲線が重複点を持たないと、曲線自体は linear series  g'がどうだろうと重複度 sの重複点を持っているわけだから (s-1)s個の固定点がカウントされるわけである。(非特異点 (s-1)s=0*1=0でカウントされない。)ここで前提の特異点が通常であることが効いている。

よって、

 r' + \sum (s-1)s = 2m(m'-1)

を得る。

linear series  g,g'の役割を入れ替えて同様に考えれば

 r + \sum (s-1)s = 2m'(m-1).

ただし rは linear series  gに対する Jacobi group に属する点の数である。

これらから sを消去すると

 r'-2m' = r-2m

を得る。両辺はそれぞれ linear series  g',gによって定まる量である。つまり、この量は linear series の取り方に依らない。そこで

 p:=r/2-m+1

と定義すると linear series の取り方に依らない曲線固有の整数値の量が定まる。( rは偶数。)

これを曲線の種数という。 

 

先の円の例でいえば、 linear series は直線を扱っているため  m=2で Jacobi group の点の数は r=2。計算すると p = 2/2 -2+1=0。種数0である。

 

linear series としては次数を一般次にとっているが、実際の計算としては直線の系を使うのが一番シンプルだと思う。

 

参考文献:

[1] Lectures on Curves, Surfaces and Projective Varieties, European Mathematical Society

[2] Luigi Cremona, Elements of Projective Geometry, 1885, English Edition, Forgotten Books