My Brain Is Closed

素人のんびり数学日誌

平面曲線の種々の特異点をまとめるに当たって:Newton-Puiseuxアルゴリズムの勉強

曲線の種々の特異点をまとめるにあたって曲線 y^2=f(x)のような曲線を念頭に置いて考えていた。色々な特異点の状況を調べていくうちに、特異点において、はたして常に分岐が存在することは保証されているのだろうか?と、どことない不安を覚えた。曲線の特異点をイメージすれば当たり前のことなのだが、不安症な私は、どうにか担保しておきたいと思った。

以下は二つに分岐する特異点(nodeとかcuspとか)に関する私なりの証明で、ここにメモしておく。(更新があれば随時行っていく。)

 

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 f(x,y) x,y多項式 g(x)g(0)=0なる x多項式とし、曲線 C: f(x,y)=g(x)を考える。ただし多項式f(x,y)において純粋に yのみ存在する項は y^2のみとし定数項は持たないとする。

 

この曲線 Cに対してNewton-Puiseuxアルゴリズムを考える。(以下、NPアルゴリズムと略す。)

 

主な登場人物をまとめておく:

 n\alpha+m\beta=k

ニュートン多角形におけるスロープの方程式。(\alpha,\beta)ニュートン多角形のいる平面の座標)

 \sum A_{\alpha,\beta}Z^{\beta-\beta_0}

y-rootの係数が満たす方程式。 A_{\alpha,\beta}は曲線C中のx^\alpha y^\betaの係数。スロープの最小の高さ\beta_0。)

 x=x_{1}^n

 y=x_{1}^m(a+y_1)

(NPアルゴリズムでの変数変換。 aは上記y-rootが満たす方程式の解)

F=x_1^kF_1

(NPアルゴリズムの対象の曲線F。変数変換後に対象となる曲線F_1

 

一番示したいことは以下の主題である。

[主題].曲線 Cにおいて、NPアルゴリズムによって得られるy-rootは必ず二つに分岐する。つまり、y-root  y=\sum_i a_ix^{i/2}に対して、どれかの係数 a_iは相異なる二つの値を選択することができ、それ以外の係数は一つの値しかとることができない。

 

曲線 Cに対してNPアルゴリズムを適用して得られる曲線の列を C=C_0,C_1,...,C_i,...とし、この列を考える。

 

主題を示していくため随時主張を上げ証明していく。

[主張].ニュートン多角形N=N_iのスロープとして以下のいずれかを取ることができる:

(1) \alpha+(k/2)\beta=kもしくは \alpha+k\beta = k,

(2) \alpha = 0,

(3)\beta = 0.

ただし、 k> 0ニュートン多角形Nの幅とする。

(1)の時、スロープは\alpha軸と\beta軸上の二点か、\beta=1上にあるもう一点を加えた三点を取る。

(2)の時、スロープは点 (0,0),(0,1),(0,2)の内の二点を取るか、 (0,0),(0,1),(0,2)の三点をとる。

[証明].

スロープの可能性として以下の三つの場合が考えられる:

\alpha軸に平行である

\alpha軸に傾いている

\beta軸に平行である

最初の場合、各曲線 C_iは純粋に x_iを持つ項を常に持つのでスロープとしては \alpha軸上に居なければならない。(3)に該当する。

最後の場合、 \alpha=k kは曲線 C_iが純粋に x_iを持つ項の最小次数となるが、この時 y-rootとしては曲線C_iの部分曲線 x^k=0は不要なのでスロープは\beta軸上にあるとしてよい。

また曲線C_iの項 y_i,y_i^2を変数変換し曲線 C_{i+1}に現れる項を求めると、変数変換 y_i = x_{i+1}^{m}(a_i+y_{i+1}) (m=k/2,k)に対して

 y_i \mapsto a_i+y_{i+1}

 y_i^2\mapsto (a_i+y_{i+1})^2

となり曲線C_{i+1}y_{i+1}に対して二次より大きい項を持たないことがわかる。よって、スロープの通る点としては (0,0),(0,1),(0,2)の内二点をとるか三点をとる(一点のみをとる場合は既にアルゴリズムは終了している)。

(2)に該当する。

二番目の場合、 \alpha軸上に点を取らなければならないので少なくとも二点をとる。(1)に該当する。

[QED]

 

[主張].曲線 C_iは必ず y_i^2もしくはy_iを項として持つ。

[証明].

曲線の方程式 A_{\alpha,\beta}x^\alpha y^\betaを変数変換 x=x_1^n; y=x_1^m(a+y_1)すると

 A_{\alpha,\beta}x^\alpha y^\beta = x_1^k A_{\alpha,\beta}x_1^{n\alpha+m\beta-k}(a+y_1)^\beta

となるが x_1のある項は項 y_1^2に寄与しないため n\alpha + m\beta=kとなる。つまりスロープの上にある項のみを考えればよい。

最初の列 C, C_1を考える。

 y^2は曲線 Cyに関して最小次数の項のため、スロープの方程式の通る点は (0,2),(k/2,1),(k,0)(k>0)の三点のみか (0,2),(k,0), (k>0)の二点のみである。

前者の場合

 A_{0,2}y_1^2 + (A_{k/2,1}+2aA_{0,2})y_1+(A_{k,0}+aA_{k/2,1}+a^2A_{0,2})=A_{0,2}y_1^2 + (A_{k/2,1}+2aA_{0,2})y_1

後者の場合

 A_{0,2}y_1^2 + 2aA_{0,2}y_1 + (A_{k,0} + a^2 A_{0,2}) = A_{0,2}y_1^2 + 2aA_{0,2}y_1

と展開され曲線 C_1でもy_1^2は存在することが分かる。また、曲線 Cで係数 aが分離解である場合は曲線 C_1 y_1に関して最小次数を持つ項は y_1であり、重解である場合は再び y_1^2であることもわかる。

 C_i, C_{i+1}を考える。

曲線 C_iは項 y_iを最小次数の項として持つ場合

方程式 A_{\alpha,\beta}x_i^\alpha y_i^\betaを同様に変数変換し展開すれば A_{0,1}y_{i+1}+(aA_{0,1}+A_{k,0})を得るが曲線C_iの仮定より定数項は消える。

曲線 C_iは項 y_i^2を最小次数の項として持つ場合

最初の議論と同様に項 y_{i+1}^2を最小次数の項として持つ。[QED]

 

[系].列 C,C_1,...,C_i,...のどこかで係数が分離解を持ったら以降の係数の値は一つに定まる。

 

[主張].列 C,C_1,...,C_i,...のどこかで列 C_i, C_{i+1}は分離解をとる。

[証明].

曲線 C_iは項y_i^2もしくはy_iを常に持つので、スロープの方程式は\alpha = 0もしくは、 \alpha + (k/2)\beta = kまたは \alpha + k\beta=kである。

最初の曲線 Cでは定数項を持たないのでスロープの方程式が\alpha = 0となることはない。

分離解を持たないとして変数変換を行っていくと曲線 Cの最高次の項 x^lに対して

 x^l = x_1^l \mapsto x_1^{l-k} = x_2^{l-k} \mapsto x_2^{l-k-k_1}\mapsto ...

と次数が減少していくため有限回のどこかで最終的に純粋に x_iを持つ項は存在しないことになる。この時スロープは \alpha = 0となる。

スロープの方程式が \alpha = 0の場合

分離解を持たないとして変数変換を行ってきたため、スロープは点 (0,2)を通る。スロープの通る点の総数が二点である場合は分離解を取るので三点通るとしてよい。この時、スロープに対応する曲線 C_i多項式

 A_{0,2}y_i^2+A_{0,1}y^i+A_{0,0}

となるが変数変換を行うと曲線 C_{i+1}では

 A_{0,2}y_{i+1}^2 + (2a_iA_{0,2}+A_{0,1})y_{i+1}

に対応する。仮にまだ曲線 C_{i+1}は分離解を取らないとすると2a_iA_{0,2}+A_{0,1} = 0となるため、曲線 C_{i+1}でのスロープは点 (0,1)を含まない二点 (0,0),(0,2)をとる。この時係数 a_{i+1}は分離解をとる。[QED]

 

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以上が2022/08/08時点での証明である。証明自体は終わったのだが、さらに付け加えることとしては、y-rootの係数が分離解をとった以降の係数は消えるのではないか、ということを予想しているので、その証明を述べることである。

 

修正履歴:

2022/08/13

用語の誤記を修正しました。また、スロープの方程式のパターンに関する証明を加筆修正しました。

 

参考文献:

Singularities of Plane Curves, Eduardo Casas Alvero, London Mathematical Society Lecture Note Series