My Brain Is Closed

素人のんびり数学日誌

【随時更新】平面曲線の特異点:種々の二重点のリスト

平面曲線の種々の二重点の名称、定義、例および概形を記載する。
名称とその定義(y-rootと係数の条件)は高次曲線の本*1(の4次曲線の章p.207-209)に従う。
概形の描写はGeoGebraを用いた。
与えられた曲線から(原点の)y-rootを求める方法(Newton-Puiseuxアルゴリズム)に関しては平面曲線の特異点に関する本*2が大変勉強になった。
※以下の表の「分離解」「二重解」の意味はNewton-Puiseuxアルゴリズムに出現するニュートン多角形のスロープから定まる二次方程式の解に関するものである。

名称 y-root 係数の条件 概形
node y=mx^{2/2} m:分離解 y^2=m^2x^2
cusp y=mx^{3/2} m:分離解 y^2=m^2x^3
tacnode y=m^{4/2} m:分離解 y^2=m^2x^4
ramphoid cusp/node cusp y=mx^{4/2}+nx^{5/2} m:二重解;n:分離解 (y-mx^2)^2=n^2x^5
oscnode y=mx^{4/2}+nx^{6/2} m:二重解;n:分離解 (y-mx^2)^2=n^2x^6

[特記事項]
二重点の様子で特筆すべきはramphoid cuspやoscnodeの様子である。node以外で、二重点の例として慣れ親しんでいる様子としてはcuspもしくはtacnodeのように接線(上記概形の場合は横軸)を挟んで互いに反対側に分岐する様子であるが、ramphoid cuspやoscnodeは二重点の近傍で同じ側に分岐している。

[その他]
平面曲線の特異点に関しては次のサイトが大変参考になる。
Singular Point -- from Wolfram MathWorld
当記事で載せていない(勉強・検討中の)特異点および曲線が載っているので勉強になる。

*1:A Treatise on the Higher Plane Curves, George Salmon, forgotten books

*2:Singularities of Plane Curves, Eduardo Casas-Alvero, Cambridge University Press

平面曲線の種々の特異点をまとめるに当たって:Newton-Puiseuxアルゴリズムの勉強

曲線の種々の特異点をまとめるにあたって曲線 y^2=f(x)のような曲線を念頭に置いて考えていた。色々な特異点の状況を調べていくうちに、特異点において、はたして常に分岐が存在することは保証されているのだろうか?と、どことない不安を覚えた。曲線の特異点をイメージすれば当たり前のことなのだが、不安症な私は、どうにか担保しておきたいと思った。

以下は二つに分岐する特異点(nodeとかcuspとか)に関する私なりの証明で、ここにメモしておく。(更新があれば随時行っていく。)

 

====================

 

 f(x,y) x,y多項式 g(x)g(0)=0なる x多項式とし、曲線 C: f(x,y)=g(x)を考える。ただし多項式f(x,y)において純粋に yのみ存在する項は y^2のみとし定数項は持たないとする。

 

この曲線 Cに対してNewton-Puiseuxアルゴリズムを考える。(以下、NPアルゴリズムと略す。)

 

主な登場人物をまとめておく:

 n\alpha+m\beta=k

ニュートン多角形におけるスロープの方程式。(\alpha,\beta)ニュートン多角形のいる平面の座標)

 \sum A_{\alpha,\beta}Z^{\beta-\beta_0}

y-rootの係数が満たす方程式。 A_{\alpha,\beta}は曲線C中のx^\alpha y^\betaの係数。スロープの最小の高さ\beta_0。)

 x=x_{1}^n

 y=x_{1}^m(a+y_1)

(NPアルゴリズムでの変数変換。 aは上記y-rootが満たす方程式の解)

F=x_1^kF_1

(NPアルゴリズムの対象の曲線F。変数変換後に対象となる曲線F_1

 

一番示したいことは以下の主題である。

[主題].曲線 Cにおいて、NPアルゴリズムによって得られるy-rootは必ず二つに分岐する。つまり、y-root  y=\sum_i a_ix^{i/2}に対して、どれかの係数 a_iは相異なる二つの値を選択することができ、それ以外の係数は一つの値しかとることができない。

 

曲線 Cに対してNPアルゴリズムを適用して得られる曲線の列を C=C_0,C_1,...,C_i,...とし、この列を考える。

 

主題を示していくため随時主張を上げ証明していく。

[主張].ニュートン多角形N=N_iのスロープとして以下のいずれかを取ることができる:

(1) \alpha+(k/2)\beta=kもしくは \alpha+k\beta = k,

(2) \alpha = 0,

(3)\beta = 0.

ただし、 k> 0ニュートン多角形Nの幅とする。

(1)の時、スロープは\alpha軸と\beta軸上の二点か、\beta=1上にあるもう一点を加えた三点を取る。

(2)の時、スロープは点 (0,0),(0,1),(0,2)の内の二点を取るか、 (0,0),(0,1),(0,2)の三点をとる。

[証明].

スロープの可能性として以下の三つの場合が考えられる:

\alpha軸に平行である

\alpha軸に傾いている

\beta軸に平行である

最初の場合、各曲線 C_iは純粋に x_iを持つ項を常に持つのでスロープとしては \alpha軸上に居なければならない。(3)に該当する。

最後の場合、 \alpha=k kは曲線 C_iが純粋に x_iを持つ項の最小次数となるが、この時 y-rootとしては曲線C_iの部分曲線 x^k=0は不要なのでスロープは\beta軸上にあるとしてよい。

また曲線C_iの項 y_i,y_i^2を変数変換し曲線 C_{i+1}に現れる項を求めると、変数変換 y_i = x_{i+1}^{m}(a_i+y_{i+1}) (m=k/2,k)に対して

 y_i \mapsto a_i+y_{i+1}

 y_i^2\mapsto (a_i+y_{i+1})^2

となり曲線C_{i+1}y_{i+1}に対して二次より大きい項を持たないことがわかる。よって、スロープの通る点としては (0,0),(0,1),(0,2)の内二点をとるか三点をとる(一点のみをとる場合は既にアルゴリズムは終了している)。

(2)に該当する。

二番目の場合、 \alpha軸上に点を取らなければならないので少なくとも二点をとる。(1)に該当する。

[QED]

 

[主張].曲線 C_iは必ず y_i^2もしくはy_iを項として持つ。

[証明].

曲線の方程式 A_{\alpha,\beta}x^\alpha y^\betaを変数変換 x=x_1^n; y=x_1^m(a+y_1)すると

 A_{\alpha,\beta}x^\alpha y^\beta = x_1^k A_{\alpha,\beta}x_1^{n\alpha+m\beta-k}(a+y_1)^\beta

となるが x_1のある項は項 y_1^2に寄与しないため n\alpha + m\beta=kとなる。つまりスロープの上にある項のみを考えればよい。

最初の列 C, C_1を考える。

 y^2は曲線 Cyに関して最小次数の項のため、スロープの方程式の通る点は (0,2),(k/2,1),(k,0)(k>0)の三点のみか (0,2),(k,0), (k>0)の二点のみである。

前者の場合

 A_{0,2}y_1^2 + (A_{k/2,1}+2aA_{0,2})y_1+(A_{k,0}+aA_{k/2,1}+a^2A_{0,2})=A_{0,2}y_1^2 + (A_{k/2,1}+2aA_{0,2})y_1

後者の場合

 A_{0,2}y_1^2 + 2aA_{0,2}y_1 + (A_{k,0} + a^2 A_{0,2}) = A_{0,2}y_1^2 + 2aA_{0,2}y_1

と展開され曲線 C_1でもy_1^2は存在することが分かる。また、曲線 Cで係数 aが分離解である場合は曲線 C_1 y_1に関して最小次数を持つ項は y_1であり、重解である場合は再び y_1^2であることもわかる。

 C_i, C_{i+1}を考える。

曲線 C_iは項 y_iを最小次数の項として持つ場合

方程式 A_{\alpha,\beta}x_i^\alpha y_i^\betaを同様に変数変換し展開すれば A_{0,1}y_{i+1}+(aA_{0,1}+A_{k,0})を得るが曲線C_iの仮定より定数項は消える。

曲線 C_iは項 y_i^2を最小次数の項として持つ場合

最初の議論と同様に項 y_{i+1}^2を最小次数の項として持つ。[QED]

 

[系].列 C,C_1,...,C_i,...のどこかで係数が分離解を持ったら以降の係数の値は一つに定まる。

 

[主張].列 C,C_1,...,C_i,...のどこかで列 C_i, C_{i+1}は分離解をとる。

[証明].

曲線 C_iは項y_i^2もしくはy_iを常に持つので、スロープの方程式は\alpha = 0もしくは、 \alpha + (k/2)\beta = kまたは \alpha + k\beta=kである。

最初の曲線 Cでは定数項を持たないのでスロープの方程式が\alpha = 0となることはない。

分離解を持たないとして変数変換を行っていくと曲線 Cの最高次の項 x^lに対して

 x^l = x_1^l \mapsto x_1^{l-k} = x_2^{l-k} \mapsto x_2^{l-k-k_1}\mapsto ...

と次数が減少していくため有限回のどこかで最終的に純粋に x_iを持つ項は存在しないことになる。この時スロープは \alpha = 0となる。

スロープの方程式が \alpha = 0の場合

分離解を持たないとして変数変換を行ってきたため、スロープは点 (0,2)を通る。スロープの通る点の総数が二点である場合は分離解を取るので三点通るとしてよい。この時、スロープに対応する曲線 C_i多項式

 A_{0,2}y_i^2+A_{0,1}y^i+A_{0,0}

となるが変数変換を行うと曲線 C_{i+1}では

 A_{0,2}y_{i+1}^2 + (2a_iA_{0,2}+A_{0,1})y_{i+1}

に対応する。仮にまだ曲線 C_{i+1}は分離解を取らないとすると2a_iA_{0,2}+A_{0,1} = 0となるため、曲線 C_{i+1}でのスロープは点 (0,1)を含まない二点 (0,0),(0,2)をとる。この時係数 a_{i+1}は分離解をとる。[QED]

 

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以上が2022/08/08時点での証明である。証明自体は終わったのだが、さらに付け加えることとしては、y-rootの係数が分離解をとった以降の係数は消えるのではないか、ということを予想しているので、その証明を述べることである。

 

修正履歴:

2022/08/13

用語の誤記を修正しました。また、スロープの方程式のパターンに関する証明を加筆修正しました。

 

参考文献:

Singularities of Plane Curves, Eduardo Casas Alvero, London Mathematical Society Lecture Note Series

古典代数幾何における種数の定義へ至る説明

 過去(一年以上前)に勉強し、よく分からなかったが印象に残った代数曲線における重要な量について再度勉強したので、ここに説明する。

話を平面曲線で特異点は通常なものしか持たないものに限定する。(双有理変換によって、この前提に限定しても一般性を失わない、らしい。即興で説明できないのでらしいとしておく。)

"linear series" という道具を組み合わせて使うので、ここに定義を説明しておく。

linear series とはパラメータを持つ以下の方程式のことである:

 a f(x)+bg(x)=0.

ここで a,bはパラメータで f(x),g(x)は平面上の同じ次数の同次多項式である。

要するに一次元の線型系のことである。(古典代数幾何の文献を読むと、一次元の線型系(linear system)は linear series と書かれていることがある。例えば本説明で勉強した文献[1]を参照。pencil ともいうが、この用語はクレモナの原論[2]でも一次元的に動く図形の呼び名に使われている。 flat pencil とか。)

linear series が曲線と交わる時、ベズーの定理より交点の数は一定なのだが、この数を linear series の(その曲線に関する) order という。そして、それら交点の集まりを group of the linear series という。この group はパラメータの取り方に依るので、いろいろありうる。

linear series は射影直線への射 \phi: x \mapsto [f(x):g(x)]=[-b;a]を定めるが、曲線上で考えて、点を一旦この射で移して戻した点の集まり \phi^{-1}\phi(P) を考える。この戻したものの中に最初の点 P以外にも点 Pを持つ、というような点 Pの集まり(重複度がsの点は s-1個の点と数える)を linear series の(曲線に関する)Jacobi group という。

 

ここで書いている側も何のことかわからなくなったのでイメージを考える。

linear series としては、ある点を固定して、その点を通るような直線の集まりを考えよう。曲線としては簡単に円を考える。この直線を固定された点を軸にぐるぐる動かせば円との交わりはいろいろ変化する。これらが groups of linear series である。ひとつ直線を固定すれば group of linear series。 linear series の定める射によって移して戻すというのは、要するに、曲線 Cの上の点 Pを一つ指定すると、そこを通る linear series の直線 Lが定まるので、この直線Lと曲線 Cとの交わりを持ってきましょうということである。そして Jacobi group とは、この例でいえば、円と接する linear series の直線を持つような点の集まりのことである。Jaobi group は  (2-1)+(2-1)=2点あることがわかる。

 

さて、説明には次の代数的対応の定義が必要となる。曲線 C上で考える。

状況としては二つの linear series  g,g' of order m,m'が必要である(異なる必要はない)。

1.一方の linear series  gに対して、一つ方程式を取る。

2.その方程式と曲線 Cとの交わりから任意に1点 Pとる。

3.点 Pを通る linear series  g'の方程式を取る(一意)。

4.その方程式と曲線 Cとの交わりから点 P以外の点 P'を任意にとる。

5.点 P'を通る linear series  gの方程式を取る(一意)。

6.手順4において点 P'を他の点に対しても取り同様の手順を行う。

7.手順2において点 Pを他の点に対しても取り同様の手順を行う。

この対応によって曲線 C上に (m(m'-1),m(m'-1))対応の代数的対応が定まる。

ここで Chasles principle という射影直線上の代数的対応における定理を使う。

射影直線上の (n,n')対応の代数的対応は n+n'個の固定点をもつという主張である。ここで固定点とは点 Pに対応する集合が点 P自身を含むというものである。 Chasles principle の説明は、代数的対応の定める xに関して n次、 yに関して n'次の方程式 f(x,y)=0において単にx=yとすれば次数が n+n'となるというものである。

この定理を適用できる理由は、linear series の方程式はパラメータと一対一に対応しパラメータは射影直線上にあるとみなせるからである。すると量

 m(m'-1) + m(m'-1) = 2m(m'-1)

が定まる。

 

次にこの量2m(m'-1)の内訳を考えよう。言ってしまうと、この量は曲線 Cと linear series  g'に依存して定まる量と曲線 C自体によってのみ定まる量とに分けることができる。前者は Jacobi group を構成する点の数 r'で後者は曲線 Cの重複点の重複度 sに対する量 \sum (s-1)sである。

前者に関しては手順1で一つとる方程式の定める曲線が曲線 Cと重複点をもってしまうと、その点は Jacobi group に属することからわかる。

後者に関しては、そうでない場合、つまり曲線 Cと方程式の定める曲線が重複点を持たないと、曲線自体は linear series  g'がどうだろうと重複度 sの重複点を持っているわけだから (s-1)s個の固定点がカウントされるわけである。(非特異点 (s-1)s=0*1=0でカウントされない。)ここで前提の特異点が通常であることが効いている。

よって、

 r' + \sum (s-1)s = 2m(m'-1)

を得る。

linear series  g,g'の役割を入れ替えて同様に考えれば

 r + \sum (s-1)s = 2m'(m-1).

ただし rは linear series  gに対する Jacobi group に属する点の数である。

これらから sを消去すると

 r'-2m' = r-2m

を得る。両辺はそれぞれ linear series  g',gによって定まる量である。つまり、この量は linear series の取り方に依らない。そこで

 p:=r/2-m+1

と定義すると linear series の取り方に依らない曲線固有の整数値の量が定まる。( rは偶数。)

これを曲線の種数という。 

 

先の円の例でいえば、 linear series は直線を扱っているため  m=2で Jacobi group の点の数は r=2。計算すると p = 2/2 -2+1=0。種数0である。

 

linear series としては次数を一般次にとっているが、実際の計算としては直線の系を使うのが一番シンプルだと思う。

 

参考文献:

[1] Lectures on Curves, Surfaces and Projective Varieties, European Mathematical Society

[2] Luigi Cremona, Elements of Projective Geometry, 1885, English Edition, Forgotten Books

Harmonic range を生成する式の説明

 Harmonic range において3点を指定すれば残りの1点は一意的に定まることが分かっている。直線上の3項演算である。であれば何かしら数式を用いて表したいと思う。

harmonic range を、与えられた3点から生成する式を求める方法は、私が求めた限りでは2つある。文献調査を行ってはいなので、もしかしたら既に知られていることかもしれないが、以下に生成式を求める方法を述べようと思う。

第一の方法は、正直に harmonic range の古典的定義から求めるものである。

 P_1,P_2,P_3,P_4を harmonic range とする。これらの点はその順序で直線 L上に並べられているとする。

1.点 P_1から直線を適当に引く。

2.点 P_3から適当に直線を引き手順1で引いた直線に交わるようにする。

3.手順1,2で引いた直線の交点から点 P_2へと直線を引く

4.点 P_1から適当に直線を引き手順3で引いた直線に交わるようにする。

5.手順4の交点へと点 P_3から直線を引く。

6.これまでの手順の実行の結果、四角形が形成され一方の対角線の延長線が点 P_2に交わることが分かる。

7.他方の対角線の延長線と直線Lとの交点を求める。これが P_1,P_2,P_3から定まる点 P_4となる。

※ ここで「適当に」という言葉の意味は harmonic という性質に担保される任意性を持つ。

以上の手順を直線の方程式を使って実行していけば以下の生成式が求められる:

 P_1=0, P_2=q, P_3=r, P_4=sを harmonic range とする時、

 s = qr/(2q-r).  

ただし点P_1は原点にあるとし、 2q-r0でないとする。 2q-r=0である、つまり点 P_1 P_3の丁度中間に点 P_2がある場合は点 P_4無限遠点にある。

 

第二の方法は anharmonic ratio から求めるものである。つまり3点P_1,P_2,P_3の座標をを与え anharmonic ratio が  -1であるとして点 P_4の座標を求めればよい。

 P_1=0, P_2=q,P_3=r,P_4=sとして、

 P_1P_2/P_3P_2 : P_1P_4/P_3P_4 = -q/(r-q):-s/(r-s) = -1:1,

 q(r-s)/s(r-q) = -1,

 s = qr/(2q-r).

ただし 2q-r 0でないとする。こちらも同様に 2q-r=0の場合は P_4=\inftyとなる。

 

以上が harmonic range を生成する方法の説明であるが第二の方法に沿って点を射影座標に基づき生成式を求めることができる。こちらについては、ここでは省略する。

 

実際に値を入れてみよう。

 q=1, r=3とすると s=-3。本当に harmonic か確かめると P_1P_2/P_3P_2 : P_1P_4/P_3P_4 = -1/-2:3/-6=-1:1

 

 

Harmonic range, anharmonic ratio の説明

 ルイージ・クレモナ(Luigi Cremona)の射影幾何学原論(Elements of Projective Geometry)[1, p39]を読むと、平面にある直線L(向き付き)上の4点 P_1,P_2,P_3,P_4の組(順序付き)で以下の性質を満たすものの概念が述べられている:

(0.4点はP_1,P_2,P_3,P_4という順に並べられているとする。)

1.点P_1,P_3からそれぞれ二直線を引き四角形を形成する、ただしその四角形の一つの対角線の延長線は直線Lに点P_2で交わるとする。

2.すると四角形の他方の対角線の延長線は直線Lに点P_4で交わる。

3.手順1において対角線が直線Lに点P_2で交わっていさえすれば、点P_1,P_3からの直線の引き方に依らずに点P_4が一意的に定まる。

つまり点P_1,P_2,P_3を順に与えれば点P_2を通っていさえすれば直線の引き方に依らず点P_4が一意的に定まるのである。

例えば次の4点はこの性質を満たす: P_1=0,P_2=1/2,P_3=1,P_4=\infty

(射影幾何学なので直線は射影直線。つまり無限遠点もOK。)

このような性質を持つ4点の組(順序付き)を harmonic range という。

 この harmonic である性質を量で表そうとしたのが anharmonic ratio/cross ratio である。直線L上の点Pから点Qへの距離をPQと表そう。直線Lには向きが付いているのでQP=-PQである。このとき直線L上の4点P1,P2,P3,P4の anharmonic ratio は以下の量で表される。

 (P_1P_2P_3P_4):=P_1P_2/P_3P_2:P_1P_4/P_3P_4=(P_1P_2.P_3P_4)/(P_3P_2.P_1P_4).

この量が-1(=-1:1)であるとき4点P_1,P_2,P_3,P_4は harmonic であるという。最初に述べた harmonic という性質と同値である。

例えば先ほど述べた例を計算すると

(1/2)/(-1/2):(-1)/(-1)=-1:1.

anharmonic ratio は以下の性質を持っている:

(P_1P_2P_3P_4)=1/(P_3P_2P_1P_4),

1-(P_1P_2P_3P_4)=(P_3P_1P_4P_2).

第二の性質は点P,Q,Rに対してPR=PQ+QRという性質から導かれる。

anharmonic ratio は射影に関して不変量である。つまり平面上において、直線上の4点を、ある点からの射影で別の直線へ移しても anharmonic ratio の値は変わらない。

このことは純粋に射影幾何学的に示せる[1, p.54]が、メビウス変換の性質を使っても示せる、つまりメビウス変換の3変換(スケール変換、平行移動、逆数)で確かめればよい。このことはベルチーニの超曲面の射影幾何学入門(Introduzione Alla Geometria Proiettiva Degli Iperspazi Con Appendice Sulle Curve Algebriche E Loro Singolarita)[2, p.24]にも述べられている。

逆に anharmonic ratio の値が同じであれば一方から射影を繰り返して他方へ移ることができることが知られている。つまり anharmonic ratio は完全不変量なのである。

こちらはクレモナの射影幾何学原論でしか証明を知らない[1, p.56]。

 

以上は anharmonic range の説明である。

私はこれを直線上ではなく平面曲線上で考えれないかと思っている。それにはまず anharmonic ratio を平面上に拡張すれば良いのではないかと考えている。

参考文献:

[1] Luigi Cremona, Elements of Projective Geometry, 1885, English Edition, Forgotten Books

[2] Eugenio Bertini, Introduzione Alla Geometria Proiettiva Degli Iperspazi Con Appendice Sulle Curve Algebriche E Loro Singolarita, 1907, Kessinger's Legacy Reprints